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第63話 枉津日神の行先

Author: 霞花怜
last update Huling Na-update: 2025-07-27 18:00:33

 ピンポーン、と普段、滅多にならないインターホンが鳴った。

 誰が来たのかは、気配でわかった。

「開いてるから入っていいよ、清人」

 事務所の扉が開いて、清人が顔を覗かせた。

「いつもはインターホン押さないのに、どうしたの? てか、傷は大丈夫なの?」

 事件直後は目を覚まさず、その後も回復室で療養していたと聞いている。

 清人が気恥ずかしそうに頭を掻いた。

「失血し過ぎたせいで貧血だったのよ。刺され所が悪かったみたいでさぁ。格好悪い姿、見せちゃったなぁ」

 ははっと笑う清人に気が付いて、枉津日神が顔を上げた。

「清人! 清人か! 怪我は良いのか? 生きておるのか?」

 飛び出して抱き付くと、清人の顔をペタペタ触る。

 身を引きながらも、清人が枉津日神をまじまじと眺めた。

「生きてますよぉ。へぇ、顕現すると、こんな顔なんだねぇ。あの日は直桜だったからなぁ」

「吾が直桜の姿だったから、庇ってくれたのだったな」

「そういうわけでも、ないけどねぇ」

 眉を下げる枉津日神の背中に清人が腕を回す。

 護に促されて、清人がソファに腰掛けた。

「お初にお目に掛かります、直日神様。枉津日神の惟神を受け継ぐ藤埜家が次男、清人と申します」

 清人の口から出たとは思えない真面目な挨拶に、直桜と護は身を震わせた。

「ほぅ、準備をしてきおったか。藤埜の家は、枉津日神を迎える準備があると?」

 直日神が清人に向かい、微笑む。

 清人が半笑いで息を吐いた。

「集落の五人組筆頭・

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